ワインコラム

難しいと思われがちなワインの世界を、初心者の方にも身近に感じてもらえるよう、分かりやすくご紹介していく連載コラムです。

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Vol.3 ハイパーハードボイルド ワインレポート

Vol.3 ハイパーハードボイルド ワインレポート

みなさんこんにちは、sangaの石川です。
秋の気配も深まり、すっかり夜も涼しくなりました。

このご時世、ご自宅で一杯、といった方も多いことでしょう(お店としては困るのですが、無理を言える時期ではありません)。

みなさんはビール党ですか?それとも缶チューハイ派?
僕は最近シードルがお気に入りです。リンゴのスパークリングワインですね。
アルコール度数はビールとほぼ変わらない4度〜7度。ほんのり甘酸っぱいものから、本格的な辛口まで、味わいも様々です。
夕暮れ時にぼーっと飲むのが最高ですよ(笑)

ガレットでお馴染みフランスのブルターニュ地方が有名で、スペイン・スウェーデンなどでもに造られていますが、ココ日本でもじつに沢山のメーカーが製造しています。
(写真はスペイン産です)
今ではすっかり定着した感のあるクラフトビールと同様比較的小規模な生産者が多く、地方の特色や造り手の個性など違いを味わうのも楽しみの一つです。

さて某テレビ番組にちなんで物騒なタイトルをつけましたが、コロナ禍が全く沈静化しなさそうな中、いまワイン業界に起きていることをお伝えしようと思います。
よいニュースとあまりよくないニュースがありますが、諸兄はどちらから聞きたいですか?

ではいいニュースから。
ヨーロッパ、特にフランスでは暖かい春と暑い夏に恵まれ、近年稀にみる収穫の早さでブドウの出来も最高だということです。熟し具合もしっかりとコントロールされ、酸と糖度のバランスも造り手の意志を反映したものになりそうです。
生産量もフランス全体では増加の見込みで、特にロワール地方では収穫前の雨の影響もあって昨年対比4割増と大幅な生産増となるとのことです。

あまりよくないニュースは、折角生産が順調でも、新型コロナウイルスの影響による世界的な消費の低迷から需要の増加が見込めないということです。まぁこれはワインに限った話では無いので、想像は容易だと思います。

ただワイン製造というのは、作ってすぐ現金化出来るビジネスではありません。2020年収穫のブドウは新酒をのぞいて早くても来年、多くは再来年以降ワインとして販売されます。そして銘醸地の長熟型ワインやシャンパーニュなどの高級ワインはワイナリーにて5〜6年(あるいはもっと)寝かせてからリリースされるため、その間のキャッシュフローは滞ることになります。資金に余裕のある大手ばかりでは無いので、需要の落ち込みというのは真綿で首を絞めるようにジワリジワリと効いてきます。

そもそも今年はコロナにより人の移動が制限されるなか、収穫期の季節労働者の確保が困難で、機械化への転換、人件費の高騰やソーシャルディスタンシング対策への費用など、様々なことがコスト増となってワイナリーにのしかかっていました。

さらに、航空機大手エアバス社に補助金による救済を施したEUに対し、アメリカが報復関税としてワイン(だけでは無いですが)に25%もの追加課税をしたことも追い打ちとなって輸出市場は大打撃となり、各生産地は流通量をどのように調整するか頭を悩ませています。実際輸出依存度の高いシャンパーニュでは、収穫したブドウのおよそ1/3を廃棄することによって生産量を抑え、市場のストックを調整することが決定しています。前代未聞の試みです。

そのアメリカでさえ、最大の産地カリフォルニアが猛暑由来の落雷で大規模な山火事にみまわれてることは、多くの方がご存知のことかと思います。著名ワイナリーも直接火災にあったり、施設は無事でも収穫を放棄しスタッフの安全確保を最優先とするなど、被害の大きさは計り知れません。

かようにこの2020年ヴィンテージは、疫病、自然災害、経済摩擦と様々な困難の中から産み出されるワインとなりました。北半球全体でみれば天候には恵まれたので、出来上がったワインは相当よい出来になることが予想されます。

実際私達がこのヴィンテージにふれられるのは、前述のとおり早くて来年、多くは再来年以降となりますが、困難な状況に立ち向かうワイナリーを応援するためにも、なるべく多くの方に今流通しているワインを手にとっていただきたいと願うばかりです。

次回は私達が唯一入手出来る2020年ヴィンテージ、ヌーヴォーワインについて取り上げます。

プロフィール

洋風食房sanga オーナー石川 英明(いしかわ ひであき)

  • 国際ソムリエ協会(A.S.I.) 認定ディプロマ
  • 日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ
  • 英国WSET(Wine & Spirits Education Trust)認定国際上級資格