栃木県立佐野松桜高等学校家政科×ハラール弁当開発
国も文化も違う人々が “おいしい” でつながる『佐野づくし 松桜弁当』
旧田沼高等学校跡地に佐野市国際クリケット場が開設されたことで、国内外からプレイヤーが訪れるようになった。国際大会がおこなわれる際には、イギリス・オーストラリア・インド・パキスタンなどのクリケットの盛んな国々からプレイヤーたちが集結し、大会中、佐野市内に滞在することも多くなってきた。
しかし、パキスタンやバングラデシュなど南アジア出身のプレイヤーたちは、イスラム教徒の人々が多く、戒律として、規則に則って調理・製造されたものしか口にできないため、佐野市内で食べられるものが少なく、非常に困っているという声があがっていた。
来たる10月26・27日には、佐野市国際クリケット場で、クリケットの祭典『エンバシーカップ』がおこなわれる予定もあったことから、スポーツ推進課は、佐野市と包括連携協定を結んでいた、栃木県立佐野松桜高等学校に、イスラム教徒の人々も食べられる、ハラール対応の弁当メニューをつくってもらえないかと協力を依頼したという。
依頼を受け、立ち上がったのは、家庭クラブの生徒たち。それまで、佐野市と連携してメニューの考案に携わったことは幾度かあったそうだが、今回大きく違ったのは、国も文化も異なる人々に、安心して食べてもらえる弁当メニューを提供しなければならないということだった。
生徒一人ひとりがレシピを持ち寄り、調理実習と試食を繰り返すこと10回以上。当初、イスラム教徒の人々が好んで食べるメニューに寄せていたそうだが、市内でハラール対応メニューを提供していた経験のある、『アルシオーネ・コート佐野』の支配人、五十嵐恭介さんを指導係に迎えたことで、「海外の選手たちが、日本を訪れたこと、ひいては佐野に来たことを楽しんでもらえるような内容がいいのではないか」とのアドバイスをもとに、 “ 佐野らしさ”を全面に打ち出したメニューを考案していった。
そうして完成したのが今回のメニュー。去年の4月からはじまったハラール弁当の考案は、足掛け2年の歳月を要し、製品化については、市内で弁当販売をおこなっている、『なるねこ』の玉井成美さんに協力を仰ぎ、生徒たちが考案したレシピを完全再現してもらった。
生徒たちは試食をおこない、メニューの最終確認に臨む。さらに改良すべき点なども含め、じっくりと味わいながらメモを取っていた。
生徒たちに話を伺うと、一番苦労したのは調味料だったという。イスラム教では、豚肉やアルコールの摂取が認められていない。そのため、料理に使う酒や醤油、味噌なども、イスラム教独自の処理を施した、ハラール認証を受けたものでなければならなかった。食材もさることながら、調味料に至っても、普段使っているものでは料理ができないという難しさに直面することとなった。
しかし、高校生ならではの柔軟な発想と、卒業した先輩たちから受け継いだレシピをブラッシュアップをするかたちで、試行錯誤を重ね、現在のメニューにたどり着いたという。
「最初はイスラム教徒の方が食べる、ハラールのお弁当ということだけを意識してつくっていましたが、五十嵐さんのアドバイスを受け、せっかく佐野に来てくださるなら、佐野の名物を食べてもらいたいと思うようになり、外国の方も日本の方も、みんなが食べられるような、食べやすい味にしようと、改めてみんなで考えました」と生徒たち。
器を彩るのは、日本ならではの味わいが楽しめる、炊き込みごはんや大学いものおかず。出汁のきいた厚焼き玉子や佐野産の野菜類などを添えて色彩も豊かに。そこに佐野らしさを加えるため、黒唐揚げやいもフライ、餃子などもメインのおかずとして取り入れた。さらに、佐野市民のソウルフードとして、佐野ラーメンを入れたいとの声もあがったため、麺を揚げ焼きにした、オリジナル佐野ラーメンのおかずも取り入れることとなった。
家庭クラブ顧問の熊倉厚子教諭は、「みんなで話し合って、数えきれないほど試食を繰り返しました。五十嵐さんをはじめ、玉井さんには本当にお世話になり、感謝しかありません。足掛け2年、先輩たちの想いも託されて完成したメニューです。先輩たちから受け継いだレシピをもとに、今の私たちが持てるすべてを使って、外国の方に楽しんでいただけるようなメニューを考えました。日本らしさが伝わる、佐野の名物がたくさん入った『佐野づくし 松桜弁当』。イスラム教徒の方はもちろん、市外から来た方にもぜひ召し上がっていただきたいですね」と誇らしい笑顔で語った。
来たる10月26・27日のエンバシーカップで、いよいよ販売がおこなわれる『佐野づくし 松桜弁当』。「約2年の歳月をかけて、みんなで頑張ってきたので、たくさんの方に食べていただけるようにしたいです」と意気込みを語る生徒たち。
日本らしさが引き立つ、佐野でしか出会えない味。イスラム教徒の方もそうでない方も、食べてくれた人すべてが笑顔になるようにと願う彼女たちのおもてなしの心は、国も文化も越えて、多くの人々に届くだろう。
彼女たちが開発したハラール弁当は、世界中から訪れた人々に、大いなる希望を与えるきっかけになるかもしれない。異文化の交流を通して、佐野市がさらに活性化していく未来への第一歩となることだろう。
佐野市 産業文化スポーツ部 スポーツ推進課
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