佐野の「匠」に会いにゆく…。[書道家さおりさん]

佐野の「匠」に会いにゆく…。[書道家さおりさん]

書道が彼女に与えたものは何か。 そもそも書道とは何なのか。 真っ直ぐ丁寧に答える姿に「書道家」というものを見せてもらった。

こぼれ落ちそうな笑顔で取材陣を迎えてくれたさおりさん。大胆な書のパフォーマンスを披露するときの凛とした印象からは想像できない、気配りに満ちたしなやかで繊細な印象の女性。 「子どもの頃はとにかく人とのコミュニケーションが苦手で(笑)。口ベタで何を話していいかわからず…それでも何か正直な気持ちを話そうとすると誤解を生んだり傷つけたり。教室の隅っこで一人で絵を描いてるような子でした。それが小2で書道を始めて、本当にいろいろなことが変化しました。筆を持つとスッと白と黒の世界に行ける。気持ちいいんですね。今でも口ベタは変わりませんが、書を通して自分を表現することで人となんとかうまく付き合えて…いるような気がします(笑)」 

口ベタなさおりさんの言葉を書が代わりに語る。書が通訳をする。では、 さおりさんの書の中にはどんな彼女がいるのだろうか。 「非常に二面性があるんですよね(笑)。 たとえば、プロレスリング・ノアのロゴの文字。私を知らない人が見て“え!? 女の人が書いたの!?”とびっくりされたそうです。もうひとつ、私の師匠である堀桂葉教授は仮名文字の大家なので、 私自身こだわりもあるし書いていて心地いいのは平仮名が多いんです。流れるようにしなやかな女性的な字ですね。でも漢字を書いているときの爽快感のようなものは自分自身から湧き出ていると思うし… どちらも自分なんですよね」

書道展に出展するような字を基盤に持ちながら、現在さおりさんはアートとの融合にも挑戦中だ。「書をどこまでくずしてその字の本質を表現するか、ギリギリのところを探るのが楽しいし、わくわくするんです」 白と黒だけで表現される書の世界。男性的な部分と女性的な部分、この相反する二つの気質を持ったさおりさんそのものを表した世界にも見えてくる。だとすればアーティスティックな書はその二面性のちょうど中間部分か。 「どんな字を書くときもまず自分自身と向き合います。だから全部バレちゃいますよね。ごまかさず、いつでもそのとき私が思う最善を尽くし、魂を込めた1枚を書くように心がけています」 

海外経験もある彼女。2020年の東京オリンピックを前に平仮名を無形文化財へ推す動きがあるというのが、最近一番うれしかったニュースだという。「日本で生まれた仮名文字を、師から受け継いだ素晴らしい仮名文字の文化を、日本人として世界に発信していきたいです。そして、受け継いだものを少しでも伝えていくことができたとき、本物の書道家に近づけるんだと信じています」

▲個展「さおり展 前進」2014.8より 作品左から 分かれ道 / 花

Profile

書道家 さおり

昭和60年、佐野市山形町生まれ。小2で書道をスタート。戸奈良町にある溪華書道会、二木溪華に師事する。佐野短期大学を経て、日本書道専門学校に入学し、教授の堀桂葉に師事。書道師範・認定書道教室看板取得。さおり書道会を主宰する他、佐野商工会「まちの学校」や、高齢者施設でも指導。店名ロゴや、題字・デザイン作成、赤ちゃんの命名書などにも高い評価を得る中、様々なイベントにも精力的に出演。