佐野少年ラグビーフットボールクラブ

佐野少年ラグビーフットボールクラブ

25年前、県内で2番目にできた小学生のためのラグビーチームが佐野にある。運営はほぼ手弁当のボランティア。子どもたちにラグビーの楽しさを伝えたい思いのみで、ここまでやってきたという。子どもたちがラグビーを通して体験するものの正体は何か。
ラグビーシーズンど真ん中、キンキンに冷えた秋山川河川敷でコーチ陣に聞いてみた。

河川敷でラグビーを好きになる

毎週日曜日の午前中、堀米橋の北側・秋山川河川敷緑地で活動しているこの少年クラブは、なんと年会費(協会登録料+保険料他)6000円だけ。あとはすべてボランティアで運営されている。片山ヘッドコーチほか、数名いるコーチたちもすべて手弁当。習い事や塾であれば、一か月の月謝だけでも6000円を下ることは少ないこのご時世にあって、奇跡のような団体といえる。

「80年代、佐野高校のラグビー部は花園(高校ラグビー・全国大会が行われる聖地)行ったりして強かったんだけど、ラグビーってどうしても高校から始める子が多いでしょう。どうせなら小さい頃からボールに慣れさせたいねって話から、佐高OBが中心になって始めたんだよ。営利目的じゃないから月謝制は考えなかった。始めた当初は、私も現役引退後間もなくて、けっこう厳しめだったかもしれない(笑)。でもみんな楽しんでラグビーやってくれたね」

仕事先でクラブの一期生に遭遇したこともあったとか。

「今は結婚して、子どももいますっていってたよ。いつの間にかそんなに長いことやってんだなーって思ったね」

クラブのOBOGには、その後、高校、大学、社会人で活躍する選手も多い。2017年のU20に選ばれた武井 日向選手は國學院栃木から明治大学へ進み、大学生で構成されるジュニア・ジャパンのメンバーに選出されている。國學院栃木のキャプテンから帝京大学を経た小野 貴久選手は、現在、日野レッドドルフィンズのフランカーとして活躍中。佐野高校から筑波大学に進んだ福嶋 一樹選手もこのクラブのOBだ。

「クラブで大事にしてることは、ラグビーを好きになってもらうこと。そしてできればラグビーを続けていってほしいというのがあるね」

練習を見ていて感じるのは、子どもたちが個性豊かなこと。1年生から6年生までいるので、当然、体格も凸凹だが、内面から滲み出ているものもなんだかカラフルに感じる。よくしゃべる子、おっとりした子、負けず嫌いな子、にこにこ笑っている子、急にダダをこねる子(低学年)、それをなだめる子(高学年)。コーチたちはそんな様々な個性の子どもたちをよく見ている。甘やかしもせず、押さえ込みもせず、とにかくよく見て適切なアドバイスを重ねる。恐怖で支配する安易なコーチングがなく、自主性と長所の多様性を見逃さまいとしている。子どもたちにラグビーを好きになってほしい。おそらくそれはしっかり子どもたちに届いているはずだ。

「小学生専用のミニラグビーというルールがあって、さらに技術や体力を考えて低学年(1、2年)、中学年(3、4年)、高学年(5、6年)に分かれて試合をする。ラグビーのいいところは、走れない子にもポジションがあるし、身体の小さい子にもポジションがある。どんな個性にもポジションがあることなんだよ」

パスは必ず後ろだけ。ボールが楕円形でどこに飛ぶかわからない。ゲームを動かす知性とスポーツとしての肉体性。相反する二極を同時に必要とし、さらに“一人はみんなのために、みんなは一人のために”プレーする。試合が終われば敵も味方も関係ない“ノーサイド精神”。ラグビーの魅力を語る言葉は枚挙に暇がないが、今を生きる子どもたちがラグビーで得られる最も尊い経験は、多様性によって成し遂げるチームワークかもしれない。個をそこなうことなく成立する全体。優れた経営者にラグビー出身者が多いと言われる一因もこのへんにありそうだ。

さらにこのクラブのコーチがみな、クラブメンバーのお父さん(!)ということも特筆される(取材時に欠席していた数名のコーチ陣もみなお父さん!)。「そんな気はなかったのに気がつけば…」というコーチが多く、日曜朝の秋山川河川敷には魔物でも住んでいるのだろか。子どもも大人も「なんか来てしまう」場所となりえたのは、きっとそこが楽しいから。そこまで言うのが大袈裟だとしたら「嫌じゃないから来る」で語弊はなかろう。25年もの長きに渡り、ボランティアだけで成立しているこのクラブが佐野にあることを、市民として誇りにしていきたい。

片山 武夫 ヘッドコーチ

1953年、兵庫県姫路市生まれ。高校時代からラグビーを始める。就職後、20歳で佐野へ転勤に。佐野高校OBで会社の同僚だったメンバーが立ち上げたラグビーチーム『佐野クラブ』に発足当時から関わり、1980年本県で開催された『栃の葉国体』でのラグビー候補選手に選ばれる。1983年、県内では足利に続き、2番目の発足となる小学生を対象とした『佐野少年ラグビーフットボールクラブ』を仲間とともにボランティアで立ち上げ、現在まで佐野市のラグビー普及に尽力し続けている。

山中 博 コーチ
片山ヘッドコーチの右腕
創設当時からのメンバー

息子さん2人がクラブに入ったことがきっかけで関わるようになったとか。現在は娘さんの長女(小5)が紅一点・女子選手として在籍し活躍中だ。片山さんが「剛」なら山中さんは「柔」という役割分担で、長年クラブを支えてきた。

林 孝志 コーチ
日曜になると自然と足が河川敷に…

佐野高校ラグビー部OB。現在6年生でキャプテンを務める翔吾くんが小1でクラブに入ったことをきっかけに、片山さんに声をかけられコーチに。試合日程や集合時間など、細かい連絡事項を保護者へ伝達する役回りも。

岩田 亮 コーチ
新卒の赴任地が栃木県
そのまま住みつきました

現在中3の息子さんがクラブメンバーだった頃からコーチに。難しい低学年の指導にも定評がある。「ラグビーなら、誰でもかならず役割がある。ボールを渡した味方が走っていく姿を見ることの気持ちよさを味わってほしいな」

諸澤 達也 コーチ
まずは楽しむことから始めましょう!

佐野高校ラグビー部OB。高校卒業後、ラグビーからは離れていたが、小6の息子さんのクラブ入りで自身も再スタート。コーチ陣がみな取得している「スタートコーチ」の資格を一昨年取得。「小学生なのでまずラグビーを楽しんでほしいです」

佐野少年ラグビーフットボールクラブ

  • 秋山川河川敷緑地(堀米橋北側)
  • ​​​​毎週日曜日 9:30~12:00
  • お問い合わせ先:Tel.0283-62-7856(片山)
  • 見学・体験参加 自由