安藤勇寿「少年の日」美術館

安藤勇寿「少年の日」美術館

画家 安藤勇寿が『少年の日』にたどり着くまで

豊かな自然に囲まれた、旗川のほとりに佇む『安藤勇寿「少年の日」美術館』。学校を思い起こさせる白い外観にはどことなく懐かしさが漂う。

館内に足を踏み入れると、幼い頃に体験した思い出やいつか見た景色が蘇るような感覚を覚える。色鉛筆で、幾重にも重ねられ描かれた美しくあたたかな世界は、『あの頃』を思い出す。
安藤さんの描く絵には、そんないつかの記憶を呼び起こす力があるのだ。

安藤勇寿「少年の日」美術館が開館してから20周年を迎えた。安藤さんはこれまでを振り返り、「人に恵まれた年月でした。心を響かせてくれる人たちとの出会いがいくつもありました。自分を見てくれている人がいるということはこれ以上ない宝だと思います。こういうものを描きたいと思い描いて、その絵を見てくれた人がいろんな感情や懐かしさを感じとってくれる、それは本当にありがたいことで、この『少年の日』の絵を描いていてよかったなと思うことのひとつです」と語った。

安藤さんが絵を描きはじめたきっかけはなんだったのだろうか。「小学校1年生のときに、先生に絵を褒められたことがきっかけです。その喜びを現在までずっと大切にしてきました。絵で自分を褒めてもらった喜びというのが原動力になり、大人になってもそれが続いているということでしょうか」と、絵を描く原動力についても教えてくれた。

いつ頃から絵を描く仕事に就きたかったのかを尋ねると、意外な答えが返ってきた。「最初はデザイナーになりたいなと思っていたんです。でもどこの会社に入っても人間関係がうまくいかなくて、自分は会社勤めは向いていないのかな、じゃあ自分一人で仕事ができるものってなんだろうって考えたときに、はじめて『絵を描くこと』にたどり着きました」と笑う。

それからは出版社などを精力的にまわり、売り込みをする日々を送ったという。「小説やエッセイ、俳句などを読んで、自分ならこういう絵を描きますっていうのをいろんな会社に売り込みに行きました。描いては貯めて、売り込みに行っての繰り返しで、3年ぐらい経ったころから、挿絵の仕事をもらえるようになり、憧れだった新聞連載やポスターの仕事も頼まれるようになりました」

教科書の挿絵やカットなど、絵に関する思いつく限りの仕事をしてきたという安藤さん。しかし、30歳を迎える少し前に、気づいたことがあった。「絵を描いていて、今いただいている仕事はどれもありがたいけれど、本当に自分が描きたい絵ってなんだろうって思うようになったんです。挿絵の仕事に全力投球しつづけると、自分が本当はどんな絵を描きたいのかっていう思考が一回そこで切れちゃうんです。4~5年悩んだ結果、仕事を全部休ませてもらい、自分と向き合うための時間をもらいました」

1年間だけという家族との約束で、すべての挿絵の仕事をやめて、自分は本当は何を描きたいのか、自問自答を繰り返す日々。「毎日毎日考え、でもなかなか見つからなかった。1年間の猶予をもらったのに、気づいたらあと残り2~3ヶ月。そのくらいの頃に、何げなく描いた一枚の絵が、もしかしてこういう絵が描きたいのかな…。それから24~25点描き、1年という期限の最終日を迎えたんです」

自分と向き合い、本当に描きたかった絵を見つけた安藤さん。「自分が描きたかったのは、喜びや悲しみなど人間なら誰しもが感じる感情だった。それを絵にしたかったんだってやっと気がつきました」

絵を描き続けているうちに、描きたいものを一言で表現するひとつの言葉が浮かんできたという。「人間なら誰しもが感じる感情は、物心ついた頃からその子の言葉で話し、伝えます。そういう年令の頃から話すいろいろな感情を一言でいう言葉を探していたら、『少年の日』という言葉にたどり着きました」と、うれしそうに語ってくれた。

今後も変わらず、「少年の日」の絵を描き続けていきたいという安藤さん。これからも見る人の心にあたたかい光を灯し続けていくことだろう。絵を描くことが大好きだったひとりの少年が、画家になるまでの物語。一人の人としてのいろいろな感情を描きながら、画家となった今も、絵を描くことの喜びの中を一歩一歩、歩んでいる。

安藤勇寿「少年の日」美術館の情報

  • 〒327-0304 栃木県佐野市御神楽町623-1地図を見る
  • TEL/0283-67-1080
    FAX/0283-67-7030
  • 9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)
  • 休館日:月曜(祝日の場合は翌日休館)、第1火曜、その他
  • http://www.shonennohi.jp/