安藤勇寿「少年の日」美術館

安藤勇寿「少年の日」美術館

ふるさと・田沼の自然の中にみつけた生涯のテーマ「少年の日」

この美術館のテーマとなっている“少年の日”という題材は、どうやって生まれたものなのですか?

「20代の頃は、挿絵やイラストといった、スポンサーから依頼を受けて描く絵の仕事をしてたんだよ。そこから、さて“自分は自分が描きたいものを描ける作家なのか。作家として絵を描ける自分なのか”と、いわゆる自分の絵というものを探してみようと思った。そんなときみつけたのが“少年の日”というテーマでね。ふるさとの自然、季節の移ろい、人の温もり、日々の暮らしや昔ながらの行事のように、今日まで積み重ねられて引き継がれてきた尊い美しさをいつまでも少年のような心と目で描いていきたいな、と思ったんだよ」

31歳から66歳の現在まで35年間このテーマで作品を描いてこられたわけですが、絵の発想はどこからくるんですか?

「たとえば、今、サノメディアのカメラマンさんが私をパシャパシャ撮ってるじゃない?で、実は今“できるだけカッコよく撮ってほしいな”て思ってるわけよ(笑)。心の中でね。で、この“カッコいい”てのはいったいなんだろな、と。人によって違うし、時代や性別や、同じ人間の中でも変化するよね。僕がやってるのは、そういう“カッコいい”という形のないものを自分なりの絵にすることなんだよね。カッコいい、という形のないものを形のあるものの姿をかりて絵にする。かなしい、さみしい、楽しい、気持ちいい、そういういろんな感情や、植物や生き物や自然。全部そう。じゃあ桜、というものを描くときに、一番自分が“桜だ!”と思うのを絵で描くんだよ。そういうとき、自分の記憶の中の桜だけで描くと、自分が描きたい桜にならないことがあるんだね。実物を前にしていろんな角度から…横からも斜めからも裏側からも見てデッサンするうちに“あ!これだ!”というのを見つける。それが一番自分の描きたいものに近づけやすいの」

実物を見る、という意味では、美術館のある御神楽地域は安藤さんの生家にも近いと聞きました。少年の日、そのものですよね。この地に美術館とアトリエを作ったのは、そういう意味もあるんですか?

「それが偶然なんだよね。田沼に自分の作品を見せるところを作りたいというのがあって、いろいろ探してるとき、たまたまここの元地主さんとご縁があって。星がきれいだな、梅が咲き始めたな、ふきのとう出てきたな、というのを目の前で見られることの素晴らしさは言葉にかえがたいね。そういう環境の中でこの絵をみてもらう、絵にふさわしい環境というのがここにはあるわけだ」

ふきのとう、といえば、小2の国語の教科書(光村図書)にある、くどうなおこさんの詩「ふきのとう」の絵は安藤さんなんですよね。

「そうそう!よく見つけたね」

いや小学生とその親なら必ず見てると思います。あの絵を描いた人が、田沼の人なんだ!てことを知ったらきっとうれしく誇らしく思うんじゃないでしょうか。美術館でさらにもっといろんな絵を見てほしいですね。

「私が絵を描くキッカケとなったのは、多分、小学1年生のとき絵を褒められたことなんだよね。お父さんお母さんたちはもっともっと子どもたちを褒めてあげて!叱るほうが簡単だけど、褒められた記憶はその子の宝になるんだよ。それとさ、生まれてから自分を意識する中学くらいまでの年齢はとにかくいろんなものを吸収しないといけないよね。どれだけいろんな経験するか、どれだけいろんな感情を持つか。私は絵を描いてるとき、子どもの姿や動物の姿をかりてそこに入りこむんだけど、そうするとなんか絵が素直になりだすんだよ。絵の中でやってることを自分もやってる。麦畑の絵なら麦の香りまでかいでるよ。ここへきて、原画を間近で子どもたちに見せてあげてほしいな。もちろん大人もね」

たとえばこの絵(桜の)だと安藤さんはどこにいるんですか?

「ああ(笑)。絵の中でだいたい帽子かぶってるのが僕だよ(笑)。多分、見た人も絵の中のどこかに入りこめるんじゃないかな」

子どもと一緒に“この絵だとどこにいる?”て遊ぶのも楽しそうですね。

「自由に見てくれていいんだよ。見た人なりの見た人だけの経験をして帰ってほしいな」

Profile

画家 安藤 勇寿

1951年5月14日、旧・安蘇郡田沼町御神楽(現・佐野市御神楽町)生まれ。 作新学院高校美術デザイン科から、中央美術学園へ。イラストや挿絵の仕事を経て、31歳より「少年の日」をテーマとした作家活動を始める。1992年「第18回現代童画会展」新人賞受賞、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画点」入賞他、国内外で各賞受賞。各地で作品展も。 NHKみんなのうた『遠い空』、絵本『佐賀のがばいばあちゃん』、映画『那須少年記』ポスターの作画、著書、共著、作品集も多数。2002年5月5日、故郷・田沼に安藤勇寿「少年の日」美術館を開館。翌年には田沼町「町民栄誉賞」も受賞。美術館を開館してからは毎年、畳2~3枚サイズの新作発表を続けつつ、国内外での展覧会、出版・印刷物等でも活躍中。

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