さるのパンや

さるのパンや

溶岩釜で水分を閉じ込めつつ焼く小麦の香り豊かな“そのとき一番おいしい”ハード系パン

パン屋をやる人って、どうやってパンと出会うのだろう? 「私の場合は職安に行ったら、豆腐屋さんとパン屋さんがあって、パン屋さんを選んだだけですよ(笑)」 予想外の答えで驚かせてくれたのは店主の猿山淳史さん。県内はもちろん埼玉、群馬からのファンも絶えない人気店だ。

ベースは小麦粉の香りと風味を最大限に引き出したハード系のパン。店舗のある赤見地区はシニア層も多く、「固いパンで本当に大丈夫か?」という不安もあったが杞憂に終わった。昨年12月号の雑誌『STORY』で取り上げられた開業までの秘話は、奥様の綴る人気ブログ『パン屋始めます!アラフォー夫婦 貯金0からのパン屋開業with 古民家』に詳しい。

「うちはイースト少量で発酵種を作り、そこにプラス天然酵母で発酵させます。発酵のコントロールはもちろんイーストだけの方が楽です。天然酵母だけだとピークが短くて、そのタイミングに焼かないと味が落ちるんです。そこでうちは最小限のイーストでピークを長くして味を安定させるスタイルを採用しています。季節のフルーツなどを使った天然酵母だけで風味を出すスタイルもありますが、あれをやっちゃうと小麦本来の香りや風味がなくなる気がして。まだまだ試行錯誤は続きますが、そのときの自分が考える一番ベストの小麦の味を出したい…手間はおしみません」

ハード系のパンは小麦粉に対しての水分量が多い。成形時の生地の状態は“トロントロン”の柔らかさ。水分量を少なくして成形しやすくすると出来上がりのふっくらもっちり感がなくなりパサついてしまうらしい。 「私の師匠が“パン屋やるやつは馬鹿だ”って(笑)。こんなに手間がかかってるんだから値上げしてもいいんじゃないの?と言われることもありますが、私たちはおいしいものを出して、よろこんで買ってもらえれば、それでいいかなって」

職安で豆腐屋とパン屋で迷ったときまさかこんな未来があるとは誰も想像もしなかっただろう。自分の店を出すことも想定外だった。ではなぜ? 「多分、この人(奥様)と出会ったからでしょうね」 接客で柔らかな笑顔をふりまいていた奥様が、こちらを見て一瞬驚いて微笑んだ。夫婦二人三脚のパン屋道。パン屋をやる人の隣にはパンの神様がやってくるのかもしれない。

さるのしっぽ
(画像左)
¥248(税込)
細長いライ麦の入った生地のしっぽギリギリまで練り込まれた甘い黒豆。ハード系が苦手でもペロリの食べやすさ。

フリュイ
(画像右)
¥248(税込)
店頭にあればぜひ味わってほしいこの店の自信作。 クルミとクランベリー、黄金の2トップがハード系の中で見事に調和。

さるのパンや