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INTERVIEW:石山 昌良さん(JA佐野 理事)
INTERVIEW
石山 昌良さん(JA佐野 理事)
葛生の街中を抜け、仙波の交差点を右折した一帯に広がるのが仙波地区。多湿を嫌うそばに適した水はけのよい傾斜地で、山あいならではの朝晩の寒暖差も大きい。これらがそのままそば栽培への好条件となり、一帯では古くからタバコの後作として長く栽培されてきた歴史を持つ。
この伝統を継承すべく、住民たちが「そばで地域おこしを」と立ち上げたのが『むらづくり推進委員会』。平成元年(1989年)にセンターをオープンさせた。土日祝日のお昼時のみの営業ではあるものの、原料の調達から、そば打ち、調理、商品販売、店舗経営にいたるまですべてが住民の手で運営されている。今では県内にも数多くある『農村レストラン』の先駆者なのだ。
「私らと同じかそれ以上の世代は、みんなどっこの家も人が来るとばぁさんがそばブッて(打って)たと思うよ。それをさっと茹でてぼんざるに広げてみんなでつっつくわけだ。一升打ち(4〜5人前)とか五合打ち(2〜3人前)なんていう単位はその名残りなんだろうね。昔は仙波に嫁に行くならそば打てねぇと、なんて言ったっていうもんね」(JA佐野 理事・石山昌良さん)
しかしながらこのセンターでそばを打つのは、代々、年季の入った殿方のようだ。6代目会長・野部利司さんは取材中も引っ切りなしにそばを打つ。
「どっかで習ったわけじゃねぇんだけどさ。ここの先輩やいろんな人の見て覚えたんだよ。けっこうな重労働だからね。女の人じゃ容易じゃねぇよ。昔のばぁさんはよく打ったもんだよな(笑)。一回のそば打ちで10人前くらい。今はピークの頃に比べるとお客さんも減ったから様子見て打ってるけど、多いときなんか1日に20回打ったときもあったなぁ」(会長・野部利司さん)
特徴的なのはそばの伸し方。一般的なそば打ちは最後、角出し(四つ出し)という工程で全体を長方形にまとめた上で切る。しかし仙波地区は、丸い伸し方で切るという。
「四角くするのは江戸流ってやつでね。ここらのは、それこそ家のばぁさんが打ってたそばが元だから丸いんだよ(笑)。これだと包丁が小さくても切れたからなんじゃねぇかな。長さがちょっとだけ短くなるけど、味はいいと思うんだ」(野部さん)
そこへたたみかけるように石山さんが言葉を加える。
「もうちょっと下(南)の方が、同じ耕作面積でも収穫量多くとれるみたいなんだよね。土ももうちょっと肥えてるだろうし、水も多いだろ?けどそういうとこじゃ、そばの味も風味もイマイチっていうんだからね。不思議なもんでさ」
厳しい土地で味と風味を充実させる、このそばという植物。困難や逆境を味に変えるすさまじい生命力と健気さを、あの小さな粒の中に宿しているのだ。なんという頑張り屋さん!いわずもがな科学的にもルチンをはじめとする数種類の優れた栄養素を含むことは実証済みである。
誰かの実家に来たみたいなセンターで、この時代にヘコたれない生命力をすすらせてもらおう。