TRAVEL, さの百景

SANOMEDIA×さの百景 第13回「古き良き風景」

 佐野駅舎がまだ洋風木造の赤い屋根だった昭和の後期、当時万町ギオン小路にあった映画館に勤めていた父に連れられて、私は小さい頃この周辺でよく遊んでいました。今から30年以上も前の話ですが、その時の記憶を辿りながら再びこの付近を散策してみることにしました。

 久しぶりに訪れる町は道路も建物も広くきれいになっていて、初めて来た場所かと思うほどの風景の変わり様に驚きを隠せませんでした。ここは確か、かくれんぼができるほど入り組んだ道があって、自転車や徒歩ですれ違う人がよけながら挨拶をしていた狭い道だったはず。自分の記憶が曖昧で違う場所に来てしまったのかもしれない、と戸惑いながらギオン通りへ進むと、当時から変わらず営業しているお店をいくつか見かけたので、やはりここで間違いないと少しホッとしました。そんな大きな変貌を遂げた通りの、小さな懐かしさを見つけながら、佐野駅へ向かい歩いていきました。 駅南口から東へ向かうと一方通行の標識が見えます。この先は大正通りです。居酒屋やスナックなど大人のお店が多かったので、幼少の自分は行ってはいけないと父に言われていたのですが、大人になった今なら…と思い歩いてみました。

 一歩踏み入れると西側のギオン通りと比べて古民家が多く、私の記憶に近い昭和の街並みが残っていました。軒先にたくさんの野菜や果物を並べている老舗の八百屋さん。買い物カゴを片手にゆっくりと商品を吟味しているお客さんが見られます。その反対側には、道行く人がいつでも足を止めて手にとれるよう商品を揃えて出している靴屋さんがあります。奥に進むと酒処と思われる看板や、迷子になってしまいそうな細い路地がいくつもあり、父はきっとこの辺のことを言っていたんだなぁ。と懐かしい気持ちになりました。

 車からだと一方からしか見ることできなく一瞬で過ぎてしまう通りですが、歩いてみると、せわしなく発展していく町のすぐ裏に、時がゆっくりと流れる古き良き風景がまだあるという素敵な発見をすることができました。


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